幽霊を追いかける│麻木 りょう 様

気になっていた男の後をつけてスコールはドールで列車を降りた。
一年に一度、誕生日に休暇を取って墓参りに行く列車の中で会う男に対し、気付けばそんな事をしていた。
けれど、尾行は得意じゃない。スコールはすぐに人ごみの中で彼を見失ってしまった。
対象を見失った。ただそれだけの事なのに、絶望にも似た感情に心がざわめく。
途端、それは大きな不安に変わった。
「…何が褒美だ。これじゃ、くたびれ損だ」
もう、何年も前に死んだ男に良く似た姿を追ってしまったことを今更ながらに後悔する。
何も知らない、何も知らされていないから期待が疼く。
そんなコトがあるはずないときちんとアタマで理解しているなら、こんなことはしない。
「何も変わっていない、俺は」
やるならば、そちらが先なのに。
調べればしっかりと『死亡』の経緯について理解できたことだろう。
いや、理解したくないからやらなかった。彼は意識的に避けてきたのだ。
「結果がこれか」
…哀れな。と心のなかで呟いて星空を見上げた。
僅かな光さえ、刺激になる。スコールは潤んだ瞳を瞬きで誤魔化した。

けれど、溢れ出すモノは止められなかった。

会いたい。
サイファー、あんたに会いたい。

粉々に砕けた期待と心が、涙を零した。



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