納得いかない おまけ | 彦坂様 | |
翌日の朝、スコールのオフィス。 「おはよ、スコール。昨日は残業お疲れさま」 「…なんでそんな笑顔なんだ」 「さあ、どうしてかしらね?」 キスティスのとびきりにこやかな表情に嫌な予感がして、スコールはPCを立ち上げると、真っ先にメールボックスをチェックした。 …案の定、サイファーからのメールが来ている。 見たいような見たくないような…いや、相手は取引先の担当者だ。見ずには済ませられない。 恐る恐る「追加資料の送付と、今日の予定について」という、一見普通の件名をクリックする。 「…っ」 いきなり「My Sweetナントカ」みたいな、ビジネスメールにあるまじき宛名が目に入りかけて、スコールは素早く目を背け、本文に逃避する。 そこで一行目が…”あの後、無事に帰れたか?” スコールは頭を抱えたくなった。 (サイファー…! キスティスがメール見てるって知ってるのに、こんな意味ありげに書くなよ!) まずは仕事の話、と前置きがあって、こちらから依頼した資料が添付されている。 それはいいとして、その続きが… ”今夜も会いたい。仕事終わりの時間を教えてくれ。キスティ、そういう訳だからスコールに残業させるなよ” 「………」 (…いったいどうして、キスティス宛ての台詞を、俺へのメールに書くんだ…!) メールというツールの使い方として、徹底的に間違っている。 それなのに、「会いたい」の一言を見た途端にドキリとしてしまうなんて、自分もどうかしている…。 スコールはクラクラしてくる意識をどうにか保って、メールを閉じた。 「今日の貴方、ずいぶんと顔色がいいみたいじゃない?」 「…メールは読まなくていいって言っただろっ」 ご機嫌なキスティスにからかわれ、スコールは憮然として頬を擦った。 「打ち合わせが上手くいったのはわたしも嬉しいんだけど、さっそく他社の業務の割り振りにまでを口出してくるのはどうかと思うわね」 「あんたが気になるポイントはそこなのか…」 もう、誰に何処から苦情を言ったらいいのか分からなくなってくる。 「事情は良く分かりました。今日は新しい案件のほうだけでいいわ。優秀な貴方なら、定時で終わるでしょ」 「…へんな配慮は要らない」 個人的な都合を仕事に持ち込むのは本来、スコールの主義に反する。 「スコール、この際だから、はっきり言わせてもらうとねぇ」 キスティスはゆったりと腕を組むと、可愛い後輩の気まずそうな顔を見下ろし、微笑んで宣告した。 「昨日までみたいに、くよくよしてる貴方の方が迷惑よ」 その日の昼休み、非常階段の踊り場。 「サイファー…メールに変なこと書くのやめろって、何回言えば分かるんだっ」 キスティスに「迷惑」と言われたショックからようやく覚めたスコールは、声をひそめて電話の相手に訴えた。 「なんだ。それ、撤回したのかと思ってたぜ。違うのか?」 だってお前、すげえ寂しがってたんだろ、なんてけろりと続けてくるサイファーに、スコールは「撤回してない!」と抗議する。 「そもそも、仕事のメールにプライベートな連絡事項を書くっていうのが…」 スコールが言い募るのを、サイファーは遮った。 「どっちにしろ、これでキスティスに説明する手間が省けたじゃねえか」 「勝手に省くな!」 憤然とするスコールに、電話の向こうのサイファーはひとしきり笑ってから、甘い声で尋ねてきた。 「なあ、それで…何時に上がれる?」 今度こそホントに おわりっ |