この世でただ一人だけ│優夜 様

 とん、と肩に小さな重みがやってきた。


 そっと確認をすると、閉じられた瞳と小さな寝息が耳に届いた。


 その目から伸びるまつげが影を落としている。


 穏やかな時間を共に過ごし、それを愛おしいと思えるくらいには、落ち着きを取り戻していた。


 寝顔を見ながら思い出す。

 穢れを知らなかったお前に初めて触れた時、お互い震えていた。


 間に何も阻むものがない状態で抱き締めた時、胸が苦しくなって、訳も分からず涙が出た。

 2人とも、それに気づかないふりをした。

 肩口でバレないように必死で嗚咽をこらえるのを感じながら、お前の事を守りたいと思ったと言えば、どんな顔をするだろうか…。


 守らないといけないほど弱いわけじゃない。

 でも、そう言ったなら…。


 冷めた口調で「必要ない」というか?

 それとも、顔を真っ赤にして「なんであんたは」と怒りだすか?


 想像するだけで、口元が緩むのが分かる。


 そんなお前を知っているのは、この世で俺1人だけだろう?


 だから…

 もっとだ…

 もっともっと、俺にだけ感情的になればいい。


 他の奴らになんかくれてやる必要はない。


 もっと

 もっと──




fin.

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