任務先でガンブレードを破壊され修理が必要だとバラムの街まで出掛けていたサイファーが、手ぶらで戻ってきた。この後も彼に依頼したい任務が山ほど抱えていたSeeD指揮官のスコールは珍しく驚きを顔に浮かべて彼に問いかけた。
「即日修理が無理なことくらいは分かっていたが…その、代替品はなかったのか?」
「んなモン、使えるかよ!」
漆黒の刀身を真っ二つに折られたことは、即ち使い手である彼のプライドもまた…。同じ武器の使い手であるスコールにも、それは理解出来るのだが、それとこれは別だろう。サイファーにだって今後の予定は伝えてあった。武器無しで出られる任務などない。いや、性格には難ありだが、戦闘要員として優秀な彼ならば、得物はさほど大きな問題ではないと言いたいところだが…。
「ってことで、オレは暫くの間、任務受けないからな」
「いや、それは無理だ。あんたのスケジュールはこの通りなんだから」
完全に不貞腐れているサイファーに、イエスと言わせるのは簡単じゃない。かと言って我侭を許すわけにもいかない。何とか納得してもらおうとスコールはすでに組み終えた任務予定表を見せ、苦手な言葉を重ねる。
「スケジュールなんてクソくらえだっての!オレの知ったこっちゃねえ」
「人員不足に依頼過多…俺のそばで仕事をしていたら、分からないことじゃないだろう。事情は分かるが、何とかしてもらわないと困る」
命令は簡単だが、説得は難しい。スコールがぎこちない言葉を積み重ねるうちに、サイファーは苛立ちが募ってしまっていた。
「じゃあおまえはさ、オレにハイペリオン無しで行けって言うワケ?」
「そうは言ってない。ハイペリオンじゃなくても、ガンブレードならガーデン所有のものがある。それで…」
「おまえならそれで行くのかよ!」
遮って怒鳴りつける。こうなってはもう感情を抑えきれない。しかしスコールもそれを分かっていながら宥める言葉を選ぶことが出来ない。ぶつかり合う時はいつもそうだ。
「別に…怒鳴ることじゃない。冷静に考えれば分かる…それほど、難易度の高い任務じゃないのだから」
「そういう問題じゃねえだろ!!何があるか分からないって、いつもおまえが言ってんじゃねえか。それで、もしオレが!」
言いかけて、サイファーが言葉を切る。それから頭を振ってスコールに背を向けた。ピークに達した怒りをぶつけるのはいつものことだ。だが、スコールと同じ時を過ごすようになって彼には壊してはいけない何よりも大切なモノが出来た。
今、それが目の前にある。
一方のスコールも投げられた言葉に、はたと自ら言葉にした“冷静さ”を取り戻す。
続きを言われなくても、分かった。自分たちの置かれている立場がどういうものなのか…それを考えれば、スコールにも良く分かる気持ちだった。
戦いに挑む際、後悔はしたくない。
いや、後悔などあってはいけない。
もちろん、送り出す時だって。
手にする武器は自身そのもの。だからこそ。
「…悪かった。今の話は忘れてくれ。俺がどうかしてた」
「いや。…オレも。ガンブレード折られて、…その、八つ当たりだな」
目の前にいる、この世でただ一人だけ…それと同等のモノに他ならない。
「指揮官がこれじゃ…ダメだな。頭冷やして、考え直してくる」
「手伝うか」
「…助かる」
苦笑いに互いを思う素直な心を溶かして互いを見る。手にした力はそれを守るためのものでもある。折られたそれは、まだ足りないものがあるということ。
自戒を込めて2人は、もう一度顔を見合わせる。少しだけ照れた表情をにじませて。
fin.