12月22日│麻木 りょう 様

『こんな寒い中、前ン時みたく置き去りにしたら絶対許さねえからな!』
と釘を刺したからか、アーヴァインとゼルはシャッターの閉まった店の前で眠りこけるスコールを見守りながら待っていた。
今日も今日とて、オレは補習ってヤツで…もちろんアーヴァインのヤツはそれを知った上で飲み会を設定しやがった。そして誘いに乗って出掛けて行ったスコールはこのザマだ。
…まったく。こんな大事な日になんてことをしてくれるんだ!

「ねえねえ、サイファー。キミ、今日誕生日だろ?」
「ああ、そうだよ」

夏の出来事から、少しは想いが通じたかと思っていた相手だが、どうにも詰め寄り切れていない。のらりくらりとかわされているうちにその日を迎えてしまった。ほんのり期待していたサプライズはキスティスから言い渡された補習のほうで、スコールからのそれではなかった。

「え!そうだっけ?」
「そういう大事な日にだな。スコールをこんなにしやがって。…テメーら、覚えとけよ」

仲間の誕生日を忘れていたゼルのことを軽く睨んで黙らせる。まあ…誕生日なんて特別なヤツのそれだけ覚えてれば十分だ。チキンに忘れられていたって一向に構わない。
それより…問題はスコールだ。
だったら自分でセッティングするしかないと考えていたのに、スコールを連れ出されてしまってはどうしようもない。その上酔いつぶされて返されるなんて目も当てられない。

「違う。違うよサイファー。ボクはそういう大事な日だから、敢えてスコールを誘ってみたんだよね」
「そうなの?」
「そうだよ。きっと何か理由をつけて断られるだろうなあって思ってたんだけど…」
「こっちはそれを口実に逃げられたけどな」
「そうじゃないと思うなー」

どうやらアーヴァインが“この日”にスコールを誘ったのは目的あってのことらしい。仲間たちにも散々仲を勘ぐられるほどだというのに、飄々と否定し続けるスコールを試したと言うワケか。…なおさら許せねえ!とは思ったものの、続く言葉に視線を上げる。

「あ…そうだよな。スコール、前の時と全く同じだったモンな」
「それって、ゲームのハナシか」

ピンときたのは夏の日の事。スコールに酔いつぶれるほど酒を飲んだ理由を聞いたら、『ゲームに負けた』と言ったのだ。負けず嫌いで頭のイイスコールがそう簡単にゲームに負けるはずがない。何か裏があるはずだと思っていたのだ。

「そうそう」
「あ…テメーらまた、スコールを嵌めやがったな」
「だって面白いんだもん」
「そうそう。絶対酒飲むほう選ぶから!」

思ったとおりだ。
罰ゲームつきのそれとなればスコールが本気になるのは確実だ。そんなルールを作っておいて、先に彼らが負けて前例を作る…負けたら確実に罰ゲームをこなさなければいけない雰囲気を作っておいてスコールを嵌めたのだ。

「みんな知ってるのにねー」
「それって…もしかして」

罰ゲームは酒を飲むか、秘密を告白するか。きっと…そんなところだろう。いくら頭のイイスコールでもイカサマ相手じゃ勝ち目はない。そして秘密の告白なんて…

「そう、好きなヒトの名前さ」

以てのほかだ!

「そのクセさ、酔いつぶれちゃって『サイファーに迎えに来てもらう?』って聞くと、『うん』って言うんだぜ?まいっちゃうぜ」
「…参ってんのはこっちだよ、バカ」

思わず『うん』と頷くスコールを思い浮かべてしまいオレは頭を振る。そんなカワイイ仕草をこんな奴らに見せているのかと思うと腹が立ってしょうがない。ついでに言えば寝顔もそうだ!一番無防備な姿をこいつらになんて!!

「でもさあ…結局のところ、キミにプレゼントなんて面と向かって出来なくて、お酒の力を借りようとしたんじゃないの?」
「そういうことにしとくか」

素直じゃないスコールを思えば、そう考え飲み会に参加したのも頷ける。大分計画は狂ってしまったのだろうが、少し歩いて酔いを醒ませば話くらいは出来るだろう。

「じゃ…貰ってくからな」

それなら早く撤収するかとオレはスコールの腕を引いた。そしてやけに軽く動いたそれにアレ?と思う。

「異論ありませーん」
「もちろん!」

どうやら仲間たちは気付いていないようだから、さっさとスコールを背負い『じゃあな』と言って別れた。大きな声じゃ言えないが…いや、こちらから話しかけるワケにもいかないのだが、スコールのコレはタヌキ寝入りだ。
きっと、街を離れる頃に目を覚ました振りをして話し掛けてくるに違いない。
意地悪な心と弾む気持ちを楽しみながら、わざとゆっくり歩を進める。
いつになったら恋人と呼べるのだろうとは思いながらも、こんな可愛いことをしてくれる相手にオレは何度目かの恋を味わっていた。



fin.

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