夜を待つ│渡邊直樹 様

 拗らせた関係などロクなものじゃない。
 特に相手がこの男の場合。
 「23時に訓練場な」
 「了解」
 すれ違いざまに渡した言葉。
 短く応じる彼奴。
 それは所謂夜の誘い ───── お互い割り切り済みとなったここ数年の秘密。
 始めたのは自分だっただろうか?
 それとも彼奴からだっただろうか。
 訓練と称して刃を向け合った後それでも収まらない熱を沈めるためにただ交わった。
 一度きりかと思った関係は、どういうわけか二度・三度と続いた。
 俺が誘ったこともあれば、彼奴から誘ってきたこともある。
 そのまま好きも嫌いも何もなく、ただずるずると時間だけが過ぎて体だけ重ねている。
 お互い女に不自由している訳じゃない。
 それなりにお付き合いのある女のかげが無かったわけでもない。
 今だっていわゆる『彼女』が居ない訳じゃない。そこそこ可愛くて、甘え上手な女がいない訳じゃない。
 ただどうしようもなく、相手に飢えて飢えてたまらなくなる。
 その瞳に自分だけを映したくて、取り澄ました表情をぶちこわしてやりたくなる野蛮な衝動。
 お互いバレたらヤバイのは解っていても、やめられないこの関係にどう名前をつけたら良いのだろう。
 友情なんてものじゃない。愛情なんてもっての他だ。俺と彼奴の間にそんな甘ったるいものは必要ない。
 ただのセックス相手、多分、それが一番しっくりする。
 どうしようもなく下世話で生々しい俺と彼奴の関係。
 彼奴はどう思ってるんだろうな?
 彼奴がこの関係を続ける理由を聞いてみたいと思ったことは幾度もある。
 『なぁ、どうしてお前は続けている?』
 誘いをかけた後、かわらぬ足音で遠ざかる彼奴に心の中で問いかける。
 取り澄ました顔をしている彼奴の口から云わせてみたいと思ったこともある。
 その一方で。
 この関係を壊すのが勿体なくて聞けずにいる。
 相性ばっちりな体を手放すのが惜しくて、彼奴にいつまでも云えずにいる。
 最低で最悪な関係だってのは解ってる。
 だが、やめられない。
 
 『終わりにしよう』
 
 その一言が云えないまま夜の訪れを待っている以上、相当俺は彼奴に溺れてるってことなんだろう。
 愛してもいないのに、愛とは呼べないこの関係を。


fin.

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