熱波 麻木 りょう様


何でこんなにもやもやするんだか、さっぱり分からない。
やめようと思っても、気が付くとまたオレはあのことを考えていた。

どう祝おうかと考えて、考えて…でも“名案”は思いつかない。

爽やかな風とは決して言い難い、むしろ熱風の吹く中庭のベンチに腰掛けてオレは考え込んでいた。
そもそもオレは、仲間に誘われたあいつの誕生日パーティーへの参加を断っちまったし…いや、まあ。単に祝う気持ちだの姿勢を見せるだけならそのパーティーに顔を出しゃ済む話だが、はしゃぐ仲間に何故だかカッとなって『祝う義理はねえ!』とまで言ってしまった手前、それも今更だ。

だがそもそも。
無愛想で天邪鬼なあいつが仲間たちに囲まれて誕生日パーティーだなんての開かれたって喜ぶ訳がないとオレは思う。どれだけ頭悩ませて選んだプレゼントにだって、あからさまにイイ顔を見せるコトなんてないだろうし、大体がオレたちゃもうガキじゃねえんだ。ケーキ囲んで『ハッピバースデー!』だなんて歌われるのはカッコ悪いだろっての。そんなの、絶対あいつが喜ぶワケねえんだ。

…だから。
けど、…分かんねえ!
あいつがイイ顔するトコなんかしばらく見てねえし!!
何すりゃそうなるのかなんて、もっと分かんねえ!!!


…だなんて、うだうだ考えていたのはさっきまでの事。
渡り廊下を行くあいつを見つけて、ついいつものクセで訓練施設へと誘った。イヤとも言わずついて来るし、向かい合えばまた…オレ達はいつもの調子で時間を忘れてバトルに没頭した。

「…ぷっはあっーーー!!いい風吹くな、ココ!」
「ああ」

腕を上げたあいつとの手合わせは五分だ。疲れて100%の力が出せなくなるまでやりあって、互いにそれが分かったら、そこまでで終わり。気分次第で決着をつけることもあるけど、あいつとはそれなしでも十分に通じてるみたいで、どちらからともなくガンブレードの構えを解くのが普通だ。
今日もそうだった。

「訓練施設って結構穴場だよな」
「うん。確かに、気持ちがイイ」

じりじりと照り付ける太陽が傾いて日陰になった場所にあいつが腰を下ろし、オレはその横で大の字に伸びた。夏の陽は長くて、明るさよりずっと時間は進んでいるはずだ。そういや誘われて断ったパーティーは何時からだったかとは考えたが、あいつに動く気配がなかったから敢えて口にはしなかった。
しばらくそうして涼んでいたが、口を開いたのはあいつのほうだった。

「あんたは…、いや、なんでもない」
「…つうか、それ。オレが見過ごすと思ってんのかよ」

言いかけて口を噤むなんて、ツっこんで下さいと言っているようなものだ。オレはすかさずそう言って、引っ込めた話を引きずり出すことにした。何のコトだか分からないが、あいつから話を振ってくるのは珍しい。

「有り得ないだろうな」
「言えよ」
「………。パーティーの事。参加、しないのか」

聞かれてオレは驚いた。そうは言ってないけれど、オレの頭は勝手に先回りをしてあいつがオレの参加を望んでいるんじゃないかだなんて考え出しちまう。だけどもう遅い。

「ああ。おまえの誕生日のヤツ?…それなら断った。行きたくねえからな」
「あんたらしい」

『本人を前にして』と、クッと可笑しそうに笑ったくせに、それをムリに飲み込んでからあいつはそう言った。
失敗したと思った…あいつの笑った顔を見てみたかったからな。だからオレは起き上がって隣を盗み見た。もう笑ってはいなかったけど、なんだか清々しい表情をしている。これはこれで、悪くない。でも…。
バトルの間、容赦なく攻め込んでやると防戦一方になったあいつは悔しそうな表情を浮かべることがある。オレはそれが大好きで…またつい、その方向へと走ってしまう。

「オレ様に出て欲しいなら、おまえが頭下げろよ。そしたら考えてやらなくもない」
「イイよ。こっちのほうがずっと“らしい”し」
「はあ?…来るなって言ってんのか。そうか、それなら行ってやろうじゃねえの」

苛めてやろうと思ってるのに何故かするりとかわされる。ふざけんなと思って切り込み返してみても、今日はどうしたことか上手くいかない。

「手合わせの誘いがプレゼント…それで良いんだろ?」

その上、最後にはこのザマだ。カッコつかないなんてもんじゃない。こいつにからかわれるなんて最悪だ!
「バーカ。プレゼントだったら、消えねえ傷をもうひとつくらい…」
悔しくて、右手のガンブレードをガチャリと音を立てて握りなおせば『じゃあ、もう行く』だなんて逃げられそうになる始末。引き止める理由なんてないし、全く以ってどうしようもない。今日は全面的にオレの負けだ。

「ああ」

どうにでもなれと、投げやりに言葉を返し適当にひらひらと手を振る。だが中々足を動かそうとしないあいつは、何を思ったかオレの名を呼んだ。

「サイファー」
「…ナニ」

まさか言葉でやられるとは思ってなかっただけに、こんなことになるんだったらバトルでしっかりと決着をつけておけば良かったと思い顔を上げた瞬間、オレは初めて見るあいつの笑顔にドンと出迎えられる。
瞬間、猛烈な熱波に吹かれた。

「ありがとう」

いや。熱波なんてなかった。
オレはそれに見事なクリーンパンチを食らったんだ。カッとなったあとの冷え方と言ったらそれはもう、打ち寄せられた氷の波に…胸の中の何かが…いや、全部がごっそり向こうに持ってかれるような衝撃だった。

「は?…だ、だから。なんで!!…つうか、なんだよっ!!…その、顔…」

くるりと背を向けてあいつはすたすたと訓練施設を出て行く。オレは…と言えば、天地がひっくり返るほどのショックにくらくらで、頭がいつまでもぐるぐると再生し続けるあいつの笑顔にまたカッとなった頬に手の甲を当てた。僅かな冷たさに、少しだけ我に返って。でもまだ消えないアイツの笑顔に再びぼうっとなっていた。

「暑さのせいだ。この、暑さの」

どうしてだか見てみたかったあいつのイイ顔だとか、どうしてだか考えてしまっていたあいつの誕生日のこととか、仲間への嫉妬…、とか。オレ自身が何でそんなコトを考えていたんだろうってコトとその理由が一気に結びついて、なんだか一人混乱の中にいた。

「あいつのコトが好きだったのかよ、オレ。…てか、有りえねえ。けど…これは、譲れねえな」

呟いて、あっという間に心に根付いた想いの強さをオレは自覚する。


暑い夏、恋を覚えた日のことだった。



fin.





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