かくれんぼ | 麻木 りょう様 | |
「かくれんぼするヒト、この指とーまれっ!!」 キスティスが人差し指を空に向けそういうと、彼女の声を聞きつけた石の家の子どもたちが振り向き走り寄って来る。 「はーい!」 「はいはーい!!ボクも混ぜてー!」 1番はセルフィが、2番目にはアーヴァインがやってきた。少し迷っているのはゼルだ。彼はじゃんけんで負け、鬼になったとき、誰一人見つけられず泣き出したことがあり、それ以来、誰かに誘われないと、この遊びに自分から混ざれないでいた。 「キスティ、みんなでやりましょう。ほら、ゼルもいらっしゃい?スコールはどこにいるのかしら」 浜辺に面した庭で洗濯物を干しながら外で遊ぶ子どもたちの様子を見ていたイデアは、キスティスにそう言って、物怖じしている子を気遣った。 「うん、そうしよう。全員さんかー!!」 「はーい!さんかー!」 そう言われてようやくゼルが駆けて来たが、イデアが探したスコールの姿は未だない。しかししばらくしてエルオーネが彼の手を引いて家の中から出てきた。 「おまたせ!私たちも混ぜてくれる?」 「うんいいよ!…これでぜんいん?サイファーは?」 「サイファーはやらないって」 「えー。また?わたしたちを“こどもあつかい”して。ヤなやつぅ」 エルオーネが同じく家の中にいた彼を誘ったのだが、きっぱりそう言ったと仲間たちに伝えるとセルフィが文句を言う。先日、サイファーが『ガキの遊びにはつきあってらんねえ』と言ったことが原因だ。面白くはないけれど、サイファーがいなくても別段遊びに支障がないことから、彼女はすぐに『はやくやろう!』とみんなに鬼を決めるじゃんけんを誘っていた。 「「「じゃんけんぽん!」」」 「あー!!あたしがおにだぁ」 小さな手がたくさん開いて並んだ中で、握って出された手がひとつだけあった。それはセルフィで、彼女はすぐに鬼になることを了承し『10数えるよ!いい?』と壁に向かって走っていった。 「いーち、にい、さーん…」 「まってまって!!はやいー」 「はやくないー。よーん、ご、ろーく…」 セルフィが数を数え始めると、あまり乗り気ではなかったゼルもスコールも一目散に家の中へ駆けて行く。何度も行われているこの遊びでは、それぞれが隠れる場所が決まっていた。一番人気はシドの部屋だ。シドの部屋に入るときはきちんとノックをして許可をもらうというルールがあったから、鬼が10を数える間にそうして中に入れる勇気があるものは中々見つからないで済む。仲間を探す鬼だって入りづらいのだから。 次に人気なのがキッチン。棚や配膳台の影など、体の小さな子どもたちが隠れるところならたくさんあって、また庭や外に繋がる扉もあることから、危なくなったら逃げられることも利点だった。反対に簡単に身を隠せるけれどすぐに見つかってしまうのが子供部屋だ。みんなが勝手を良く知っているだけに、それは仕方のないことだった。 「もういいかーい?」 「まだまだー。ダメだよ、セルフィ」 大半から『もういいよ』という声が上がる中、まだだという声を上げたのはゼルだ。声の方角が大体、子供部屋の方角だとセルフィは判断して、彼ならすぐに見つけることが出来るだろうと待ってあげることにした。 (ゼルもココに隠れるつもりなのか) 子供部屋を隠れ場所にしようと思ったのはスコールも一緒だった。というよりも、そこしか思いつかないのがこの2人だった。 (…あっ) その上、スコールはすばしっこいゼルに最高の隠れ場所であるベッドの下を取られてしまった。クローゼットの中は、誰もが最初に探す場所だ。一番に見つかるのは面白くない。仕方なく彼は窓辺に並んだ机の影に身を寄せた。 「もういいかーい?」 「もうちょっとー!」 ゼルがまだ、足をバタバタさせているのが見える。隠れきるまで、あと少しというところだ。ちょうどその時、サイファーが子ども部屋に戻ってきた。このところ、彼には夢中になって読んでいる本があるらしく、それが理由でかくれんぼの誘いを断ったのだ。さっきまで手にしていた本を読み終えて、シドの本棚から続きの新しい本を借りてきたようだ。机の影にいるスコールにも気付かず、彼はワクワクしながら机の上に本を広げた。 そっと彼を見上げたスコールは、とても楽しそうな…かくれんぼを『つまらないからやらない』と言った…サイファーがいったいどんな本を読んでいるのか、知りたくなってしまうほどだった。 「ゼルみぃーっけ!」 「あーあ。また一番にみつかっちゃったよ」 「ココは必ず見にくるからね。こんどからほかのところにしたほうがイイよー」 ようやく『もういいよ』と答えを返したゼルのところに、程なくしてセルフィがやってきた。最初に彼女はクローゼットの扉を開け、中に誰もいないことを確認すると、すぐにベッドの下を覗き込んでゼルを見つけた。同じ部屋にサイファーがいたけれど、“ガキの遊び”と言い自分たちの楽しみを馬鹿にした彼の事はあからさまに無視して、彼女は他の部屋へと移動していった。そして…。 「スコールがいない!」 「え?セルフィ、ちゃんと探したの?」 「探したよ。最初に子ども部屋に行ったでしょ、そこでゼルを見つけて…次にキッチン!そこでアーヴァインでしょ。あと…」 「おかしいわね。じゃあ、探していない場所は?シド先生の部屋はよく見せてもらった?」 セルフィが、石の家の中を探し回った場所を順に上げる。エルオーネはそれがいつも年下の子達が隠れる定番の部屋であり、場所であることを確認する。スコールは大人しいが、賢い子でもあるのでまだ上手く隠れているとするならば、そこが一番可能性が高いと思いそう言った。 「うーん。また行くの?」 「一緒に行ってあげるから。中をよーく見せてもらいましょう」 「うん、わかった!」 部屋に入る理由をかくれんぼだというのがセルフィには抵抗があった。一度目ならまだしも、その時には見つけられず、2度目となると格段に行きづらい。それをエルオーネが手伝ってくれるとあって、2人は手を繋いで向かったのだった。 「どうしよう。スコールがいない」 「スコールが見つかるまではセルフィは鬼のままだね」 そうしている間にイデアが昼食の準備を始めた。セルフィたちはキッチンをもう一度探そうとそこにやって来たが、スコールはやはり見つからなかった。年上の子ならまだしも、スコールが見つからないというのは少しおかしいと感じたイデアがエルオーネに呟いた。 「ちょっと待って、そういうことじゃなく…スコールってばどこに行っちゃったのかしら。いつまでも見つけてくれなくて独りでいたら、それはそれで不安になると思うのよね」 「ということは…」 「あら、思い当ることでもあるの?」 「はい。でも…セルフィが見つけないと、ダメだから」 「そうね。じゃ、内緒にしておかなきゃね」 姉のエルオーネに心当たりがあるなら心配は要らないだろうと、イデアはフフフと優しく笑って子どもたちをキッチンから送り出した。 「…スコール!?おまえ…いつからそこにいたんだよ」 一番に見つかってしまうのはつまらない。だから、いつもどこに隠れるか考えてはいたが、こんな簡単なところに隠れていつまで経っても見つけてくれないというのも、酷くつまらないものだとスコールは自分から動き出していた。机の影から急に現れたスコールに、夢中になって読んでいた本を放り出すほどにサイファーは驚いた。 「かくれんぼのさいしょから」 「ココに?」 「サイファーのほうが、あとから来た」 「ホントかよ。全然気付かなかったぜ。…って、おまえさ。なんか、みんなにさがされてるっぽいぞ」 「うん、しってる。つまらないから、そろそろ見つけてもらおうかと思って…」 スコールのハナシに、読んでいる本よりも面白さを嗅ぎ取ったサイファーはスコールを新しい遊びに誘った。 「ナニ言ってんだよ。このままずっと見つからないほうがおもしろいって!」 「そうかな?」 「そうだよ。セルフィが降参するまで、ココにいろ。鬼に勝てるんだぞ?すごいじゃないか!」 「うん…わかった」 そう言われてスコールは大人しくサイファーの言葉に従った。しかし、サイファーが手にしていた本への興味は失っていない。 「あのさ、サイファー」 「だめ、声出すなよ」 「でも…」 「なんだよ?」 スコールのほうから話しかけることは珍しく、サイファーは気になって小さな声で問いかけみた。 「その本、おもしろいの?あとでいいから…ぼくにも見せて?」 「これか?…いいよ。鬼に勝ったらな」 外で遊ぶのも大好きだけれど、実は本を読むことが好きなサイファーは、他の子達と違って自分と同じ事に興味を持ってくれたことが嬉しくなりそう言った。スコールも『うん!』と嬉しそうに返事をして、また机の影で膝を抱え小さくなったのだった。 そうして…。石の家中を駆け回り探し疲れたセルフィが泣いて降参を申し出た。イデアが『出ていらっしゃい』と声を掛けたが、スコールは姿を見せない。彼女はエルオーネにそっと『やっぱり、サイファーと一緒なのかしら?』と囁きながら子ども部屋に足を向け、一緒に本を読んでいる2人を見つけたのだった。 「…そういえば。スコールと一緒に、子ども部屋に走ってきたよね?僕がベッドの下にかくて…じゃあ、スコールはずっとそこにいたの?」 「うん…ずっといたよ。ココに」 「ずっとココにいたなんて嘘だもん。さっきまでサイファーしかいなかったもん!」 誰よりも簡単な場所にいたスコールを見つけられなったセルフィは泣いて悔しがった。サイファーさえいなければという思いが、かくれんぼを馬鹿にした彼への悔しさも相俟って余計に彼女を泣かせることとなったのだった。 「あれから俺は、ひとつ利口になった」 「は?かくれんぼが?」 「そう。あんたの傍にいると、俺が好むものを手に出来るってな」 「どういう意味だよ」 中庭の木陰に寝転んだスコールは覗き込んできたサイファーに小さく笑いかけた。少し姿を隠したくなっても、どこかで誰かに呼び止められてしまうのがSeeD指揮官であるスコールの常だ。しかし今、遠くヒトの声は聞こえるけれど、彼はとてもゆったりとした時間を手に入れていた。それはまるで、あの時のかくれんぼのようだとスコールは幼い日の事を思い出していた。 「誰も近寄ってこないってこと。例えば…今みたいに」 「はぁ…そういうこと。で、それってオレが嫌われ者だっていう意味?」 「…かもな」 素っ気なく答えて、スコールは笑う。それにサイファーはつまらなそうにフンと鼻を鳴らす。少し前までの問題児も今では立派な指揮官補佐だ。厳しくもしっかりした仕事ぶりの彼への評価は高い。嫌われ者だなんてとんでもない、切れ者に映る彼は近寄りがたいだけのことだろう。 しかしスコールはココロの中で思う。自惚れやすい彼のことだ…しばらくの間、真実は隠しそう思わせておこうと。 fin. |