さざめき | 麻木 りょう様 | |
指定された教室に入って、ふと歩みを止めた。 ああ、今年も同じクラスかとスコールは一番後ろの席に陣取っている人物を見て思った。 そして彼は、壁際を歩きまだ誰も座っていない席へと向かった。それはちょうど“彼”の隣で、おそらくは皆に避けられていたのだと思う。 「よお、スコール」 「………」 「また、だんまりか。つまんねえヤツ」 何を言われようと、何も言い返す気はない。彼はヒトを苛立たせ、感情を煽るのが得意だ。そしてミスを誘い、攻め込む。何気ない普段のやり取りでも、実践に向けて訓練を積んでいる。ヒトは彼の性格を嫌うけれど、スコールはそう思っている。だから彼は、自分も訓練をしているつもりでいた。 「今年の担任、誰だろうな?…高慢ちきなオンナより、爺のほうがイイよな?サボれるし」 「………」 ガーデンという傭兵養成施設でSeeD資格取得を目指して日々訓練しているというのに、授業をサボるとはどういうつもりだ?とスコールは考えて、ああそうかと納得した。命令違反への処分は厳しい。授業をサボるなんてもってのほかだ。言葉を使って巧みに唆し、ヒトを蹴落とそうとしているのか、と。 「…ったく、どれも興味なしか。おまえって、ホントつまんねえヤツ」 どんなハナシにも答えず無視を決めてはいるが、まるで聞いていないわけではない。どれほどくだらないと思われる会話の中にも、もしかしたら重要な情報が隠されているのかも知れないと思うからだ。 スコールは話にはまるで興味がない振りをして、情報端末を弄っていたが、隣の席の男はまたもスコールに声を掛けてくる。 「なあ。…授業終わったらさ、訓練施設行こうぜ。新種のモンスターが入ったってハナシだぜ?」 「…ホントか?」 ふと、自分が声を発してしまったことに気付いて、スコールは隣の席に座る男を見た。彼はニヤニヤと笑ってこちらを見ている。負けた、とスコールは思った。敵の、取って置きの罠に嵌まってしまったのだ。 「やーーーっと、お返事ひとつ頂きましたと。おまえってやっぱバトルにしか興味ねえのな。そんなんじゃトモダチいねえだろ?しょうがねえな、オレ様が相手してやるから安心しろ」 「…別に」 「ハイハイ、お返事二つ目!…いつものヤツな。…ったく、今年もオレ様と同じクラスだったことに感謝しろよ?」 「うるさい。黙れ、サイファー」 芋づる式とはこのことかとスコールは悔しさに唇を噛んだ。サイファーの大きな声に2人は教室中の注目の的になる。これでは無視して黙っていようと思っても、感情が邪魔をしてツマラナイ言葉を返してしまう。ちょうどそこへ去年も同じクラスだったゼルがやって来た。これ幸いとスコールはサイファーから視線を切ったのだが…。 「お前ら、ホント仲イイのな。また朝から喧嘩してんのかよ」 「混ぜてやってもイイんだぜ?」 「お、俺はイイよ…冗談じゃない」 「…あ、おい」 しかしゼルは優等生のスコールならまだしも、問題児と言われているサイファーの相手をする気はないとそそくさと立ち去ってしまう。声を掛けようにも話題が浮かばず、スコールは大事な相手を取り逃がしてしまった。 「とんだチキン野郎だぜ。おまえとは違う…やっぱオレは、おまえじゃないと楽しめない」 「勝手なことを」 馴れ馴れしく隣に座り肩を組んできたサイファーの手を払って、スコールは席の端へと逃げたが、力では敵わない相手だ、すぐに引き戻されてクラス中の好奇の目に晒された。どうしてこれほど彼にライバル視されるのか。成績が理由か、それとも皆が言うように格段に性格が悪いだけなのか。スコールは考えて無駄だと溜息を零した。 理由など考えても仕方がない。 勝手に目が追う、心が彼を気に掛ける。無視してもしきれない、抑えきれない何かが、確かにあるのだから。それの正体は分からないけれど、それに逆らえないことだけは分かっていた。 「あんたいい加減、自分の席に戻れよ」 「いいじゃねえか。誰も邪魔なんかしねえって。…なあ?」 サイファーは教室中に響く大きな声で、今年もスコールを特別視することを宣言する。同じ武器を扱うライバルとして…それだけではない、彼の心もまたスコールと同じにさざめいていたからだった。 fin. |