補習 麻木 りょう様


※Sethさんの投稿作品に刺激されて、勝手な設定妄想の基に書いたお話です。ご注意ください!そしてスミマセン!!





「教科書でも問題集でも何を見ても良い。問題を全部解けたものから帰っていいぞ。どうしても分からない時は手を挙げて。だが、教えられるのは…ヒントまでだ。出来たら俺のところまで持って来い。いいな」

 言い渡すと、返事をするでもなく各自プリントに取り掛かる。定期試験で合格点を取れなかった者に対して、スコールはいつも追試ではなく補習を行っている。それは問題を解く技術を身につけるのではなく、理解することを目的としているからだ。教科書を読み直す、問題集を解き直すだけでも復習になる。彼は生徒たちにそうして反復学習の意義を教えたかった。

 ひとり、またひとりと席を立ち、教壇に立つスコールにプリントを見せに来る。すべての問題に丸をつけてやれる者、間違いを指摘し、やり直しさせなくてはいけない者、と様々だったが1時間も経つとほとんどの生徒が教室からいなくなった。
 やがて、残るはサイファー独りになった。
 サイファーは確かに“デキ”の悪い方だが、それでも学年で一番かといえばそうではない。それを証拠に彼の受け持ち以外の教科では、そこそこの成績を取れている。勉強が嫌いな訳ではないだろう…。スコールの教科だけがどうにもならないのには理由があるのだ。

 ぐるりと周囲を見回して、教室から他の生徒がいなくなったことを確認したサイファーはにやりと笑ってスコールを見る。

「せんせー」

 教師とはもっと威厳のある職業だと思っていたが、そんなふうに呼ばれると随分安っぽいものだとスコールは思う。

「なんだ」
「ちょっと」

 ちょいちょいと指先で呼び寄せられ彼の元に向かう。プリントを手に真剣な表情を見せる彼の精悍な横顔に、スコールはずれてもいない眼鏡を直す振りをして表われそうになる気持ちを隠す。
 決して出来が悪い訳ではない。サイファーが最後まで教室に残るのには理由がある。

「先生、ココなんだけどよ」
「ん?」

 まだひとつも答えを書き入れていないプリントにスコールが視線をやり『どこだ?』を屈んだとき、サイファーの腕がすっと伸びて彼の後頭部を掴み強く引き寄せた。

「はーい、引っ掛かったー!」

 抵抗する間もなく唇を合わせられる。ひとしきり口付けを楽しんで、したり顔を見せるサイファーにスコールは溜息を吐いた。

「せんせーのくせに、学習できないな」
「…まったく、仕方のないヤツだ。こういうところにだけ頭を使うなんて。早く問題を解きなさい」

 大きな声を上げて怒り、騒ぎを起こしても誰も得をしない。何より、スコールが怒っているのは口先だけなのだから。

 威厳もへったくりもない。
 教師として、自分は既に失格だとスコールは思う。

 毎度同じ手に引っ掛ってやるのも大変なんだぞ、と彼は微笑みを隠し恋人の頭を小突いたのだった。


fin.




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