Crush On You!! 麻木 りょう様


 過ぎるほどに好戦的だったり、粗野で横暴なところはあるけれども、それも戦いを生業としている以上仕方ないことだと思う。そして、そんなふうに多少性格に難があるとしても、重いガンブレードを片手で操れるよう鍛え上げた体躯や、彼の見栄えする外見は多くの異性を惹きつけるほど魅力的なことには間違いない。

…同性の自分から見ても、そうなのだから。
 とスコールは心の中で呟いて、横目で隣を歩くサイファーを見た。
表向きは問題児の彼のお目付け役として同じ部屋で暮らしてはいるが、実のところそれだけではない関係がある。幼馴染でクラスメイトでライバルで…どこをどう間違えてしまったのか、一番新しい2人の関係は恋人だったりする。

「…なんだよ。なんか用か」
「別に」

 とはいえ、甘い言葉を交わすようなこともなくどちらかといえば喧嘩をしている時間のほうが長いと思えるくらいドライな関係でもある。それは強いライバル心を見せられていた過去があるからかもしれない。

 すれ違う女子たちが向けるあからさまなそれは完全に無視するくせに、少し動かしただけの自分の視線に気付いた彼が問い掛けてくる。もやもやした心を伝える訳にもいかず、けれど上手い言葉が見つからなくて、スコールはいつもの言葉で誤魔化した。

 2月を迎えると傭兵養成施設とはいえ多くの若者が集まる学園であるガーデンはチョコレート、告白…と浮ついた雰囲気に包まれるが、スコールはどちらにも興味がない。だからこの日になると例年、名前も知らない女子から差し出される包みに辟易としていたのだが、自分に特別な相手が出来ると不思議とそれに付いて考えるようになっていた。

 だからといって今年とて今日、自分がそれを受取る気は微塵もない。
 チョコレートも告白も、自分が今日必要とするものは何もない。

 けれど…。
 あらゆることに対してライバル視されていたときは確か、これもその対象だった。今年もきっと…そう思うと零れるのは溜息だ。

「ザンネン、とでも言うつもりだったのか」
「ナニが」
「さっきのオンナたちだよ。オレは絶対それだと思ったんだけどな」

…やっぱり、と思うと二つ目の溜息が零れ出た。
 彼に取ってそれは今でもステータスのひとつなのだろう。そんなものもう、必要ないだろうという考えは女々しいのかも知れない。けれど極端な話…それがゼロであって欲しいだなんて、彼とは真逆の考えを持つ自分がいる。

「浮かれてないで、しっかり勉強しろ。それじゃ」
「浮かれてなんかねえよ。まあ…あとでな」

 進路を変え彼の背中を見送るとき、遠くに彼を待ち構えている女子の姿を見つけた。彼はきっと軽く礼を言ってそれを受取るのだろう。これから…いくつも。

 じくじく言う胸を抑えながらSeeD指揮官として仕事に就く。彼に想像するのと同じ場面がいくつか自分にも訪れたが、冷たく凍らせた感情を用いてそのすべてをシャットアウトしていった。しかしふとプライベートな時間を意識すると、とたんに穏やかではなくなる。彼も自分と同じだといい…しかし。そんなことを考える自分が嫌だと思いながらスコールは仕事を終えた。

 指揮官室を出て寮の自室へ向かう途中、渡り廊下で彼を見つけた。知らない女子の相手をしているのが分かって視線を床へと移した。

「おう!…スコール!!」

 そんな時に彼から声を掛けられる。表向きの関係上どうにも出来ないことだと冷静に考えながらも感情はざわめくばかりだ。片手を突っ込んだまま横柄な態度を見せる彼のポケットにはいくつの包みが入っているのだろうとか、その女子にはどんな顔を見せて受取るのだろうかとか…無意味なことばかり考えてしまう。

「あの…だから、コレだけでも!!」
「ああ!?…おい、ちょっ…!!」

 邪魔をしてしまったことくらい分かっている。その女子には恨まれることだろう。けれど…。サイファーに包みを押し付け走り去っていく女子を少しだけ羨ましいと思った。

「…ったく。いらねえって言ったのに」

 嫉妬などくだらない感情だと分かっているのに、知らず湧き上がってきてしまう。スコールはそれを必死に胸の奥に隠し、包みを手にした彼に『帰ろう』と声を掛けた。
 部屋に戻るなりサイファーは今日の戦利品をテーブルの上に並べることだろう。そして自分にもそれを促し勝利宣言をすることだろう。そこまで付き合ってやれば彼の気も済むに違いないと考え溜息を零した。

「…悪い。もらうつもりなんかなかったんだけど」
「…?」

 しかし彼の口からは意外な言葉が漏れてくる。

「おまえに気を取られてる間に、押し付けられちまった」

 まさかとは思ったが、手を取り出した彼の白いコートのポケットはぺたんと潰れてしまった。今日一日、さっきのような場面が何度あったことか…そのたびに彼は律儀に断っていたというのだろうか。

「しょうがねえ…捨てるか」

 恋人という言葉から思い浮かべるほど自分たちは密でもなく、どちらかといえば相変わらずの喧嘩相手といったほうがしっくり来る。それは彼も同じだろうと…だからこそ沸いてくる感情を抑えていたというのに。
 スコールはこの関係に対して意外に律儀で真摯な彼を見て小さく笑う。

「じゃあ…没収ということで」

 そしてサイファーの手からそれをさっと奪い取り、ジャケットの小さなポケットに捻じ込んだ。もう少しドライで辛口な関係を楽しみたい気分だった。

「…つうか、おまえは?いつんなったらくれんだよ。ああそうか、部屋に隠してあんのか?」
「何で俺が。…あんたなんかに」

 それなのに。さっきの女子には酷く恨まれるだろうし、きっと…酷く羨まれるに違いない言葉が追いかけてくる。スコールは溢れそうになる感情をまた丁寧に隠し2人の部屋へ向かった。

fin.




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