YES or YES 貴臣様


ベッドサイドの時計を見る。
時計の針はてっぺんを指していた。
部屋には今も動いている秒針の音と、少し遠くから聞こえるシャワーの音だけ。

そして、スコールは何度目か分からないため息をついた。

サイファーとスコールの生活リズムは、微妙にずれていた。
それは指揮官と副指揮官という立場、それに任務の内容の違いもあり、ある程度の相違は傭兵として仕方のないことだった。

例えば自分が既に床に着いた頃にサイファーが帰宅する、そしてその逆も然り。
既に寝てしまっている相手を起こすことはないが、多少のズレですれ違うこととなると話は別だった。



つまるところ。
今日はスコールが早く帰宅し、シャワーを浴びてさて寝ようとしたところでサイファーが帰宅したのである。


そして結論から言ってしまうと。
明日は朝が早いので、今日はもう寝てしまいたいということだった。

普段はなかなか就寝の時間が合うことがないので、ベッドを共にする機会自体が少ない。
自分はもうシャワーを済ませ、今はサイファーがシャワーを浴びている頃だ。あと十数分もすればサイファーが出てきて、寝室にやってくるだろう。

明日はエスタでの任務がひとつ。
エスタへの移動はラグナロクとはいえ、それでも数時間がかかるので、朝はとにかく早い。ある程度は機内でも寝れるが、寝惚け眼で向かうわけにもいかない。熟睡は出来ないだろう。

そして、今日もほどほどにモンスター討伐をしたせいで、いい具合に疲れていて既に眠かった。
出来れば、今日はこのまま寝て明日に備えたいところだった。

彼を待つベッドの上から見上げた時計の針は、ちょうどてっぺんで重なっている。
今から寝れば睡眠時間は6時間はとれる。
だが、致すことになるとすると、3時間ほどしか眠れない可能性が高い。

カチリ、と日付の変更を知らせる針の音が響く寝室。自分は今、きっと深刻な顔をしているだろう。
いよいよ生活における効果音しか聞こえなくなった。時計の秒針が進む音、そして廊下の向こうから聞こえるシャワーの水音だ。浴室にいるのはもちろんサイファーである。
このまま順当にストーリーが進めば、おそらく自分はサイファーに抱かれる。別に嫌ではない。嫌ではないのだが、すでにかなり眠い。
サイファーのシャワーは短い。早く結果を出さなければ、すぐにも寝室へやってくるだろう。
そのまま思案に集中していれば、やがてシャワーの水音が聞こえなくなったことにも気付けず。


「スコール?」

いつの間にか、サイファーは背後にいた。
一切気配にも気付けず、名前を呼ばれただけにも関わらず肩を揺らすものだから、さぞや滑稽に見えたのだろうか。サイファーが笑う。

「なにやってんだか」

「……悪い。少し考え事をしてた」

「そうかよ」

眉間に皺が寄っていたのだろう、サイファーが指で眉間を撫でてきた。
自分と同じだが、少し違うシャンプーの香りが鼻腔をくすぐる。そして、何も良い案が思いつくことは遂になく、諦めて直接言うことにした。


「明日、朝早いんだ」

「おう」

「だから今日はこのまま寝よう」

「なんだ、俺に抱かれたかったのか」

一瞬、何を言っているのかと思った。
しかし、実際その通りだ。サイファーの予想は当たっている。自分は今、言い訳までしてセックスを拒んでいるが、別に今晩そういう約束をしたわけではない。
きっとこれからサイファーは自分を抱いてくれるだろうと、いう期待があって初めてこぼれる言い訳である。正直なところ、自分が一番期待していたというところか。


「やらしいの」

「うるさい。……そもそも、あんたと被る時間なんだ、そうなると思うだろ」

ニヤニヤとしながらこちらを見てくるサイファーの顔を直視したくなくて思わずうつ向く。

大抵、誘ってくるのはサイファーからだった。
自分が割と性に対して淡白であるというのもあるが、なんとなくこういう雰囲気を作り出すのも、サイファーのが得意なのも事実だ。

「で、どうする?」

「え?」

思いがけない声に顔を上げる。
未だにニヤニヤ笑いが治まっていないその目に、今度はうっすらと淫靡さが宿る。

「今晩、お前はどうしたい?
お前に任せるよ」

意地が悪いと思った。
いつもは俺様・傍若無人で他人のことなど一切考えないこの男が。任せる、とは。

ちらりと時計を見る。
あれから、もう半時間が経過していた。
どうせ今から寝ても五時間と少し。もうこうなればやけくそだ。


「………明日は6時に起こしてくれ」

「了解」

大層不満げなスコールの声がよっぽどおかしかったのか、サイファーが声をたてて笑った。

睡眠時間を削る選択をした自分も自分だと、この時ばかりは呆れることしかなかった。


fin.




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