egg stand | シオン様 | |
カン、とグラスを合わせてからその中身を一気に飲み干した。 冷えた体には丁度いいのかも知れないが、喉が一瞬で熱くなり、それが胃に落ちていくのが分かる。 サイファーは同じものを、という意味でバーテンダにグラスを振ってみせてからようやくスツールに座った。 「思ったより早かったね」 「お前待たせると、ろくな事ないだろ」 隣に座っているアーヴァインに肩をすくめて見せると、彼は悪びれもせずに、そうかなぁと言いながらアーモンドを齧った。 遅れてきたのだから、と当然のように差し出したブランディを呷るように強要したのはもちろんアーヴァインだし、遅刻の時間が伸びればグラスの数が増えるのは経験上分かっている。 サイファーは溜息をついて、新しいグラスに口をつけた。 決められ場所でしか行動できないサイファーと違い、アーヴァインは文字通り、世界中を飛び回っている。 正式な身分はバラムガーデンにうつしたらしいが、ガーデンに居るのは一年の半分もない。 ほとんどがエスタで、ガルバディアはもちろん、プライベートでトラビアにも別荘がある。 スコールがガーデンの指揮官として正式に着任してから、その下の雑事を一手に引き受けたせいもあるが、なかなかどうして彼の性格に合っているらしい。 仕事の都合で時間が合うと、近くの町で飲むようになって一年くらいか。 暗くで落ち着いた雰囲気で、バーテンダがもの静か、簡単な食事ができて、ゆっくりと話をするのに丁度いい店、というのはどの町にもひとつはあるらしく、自然と行きつけの店が出来る。 エスタの裏通りにあるこの店は、サイファーが懇意にしている場所で、アーヴァインと飲むのは二度目になる。 「それで、スコールはパパとクリスマス?」 簡単な近況報告が終わったところでアーヴァインはワイングラスをまわして言いながら、ニヤニヤと笑った。 スコールとの関係を知っている数少ない人物は、何故か一癖ある人物ばかりで。 サイファーはわざと顔をしかめてから、グラスを口につけた。 「まぁな」 エスタの風習では、クリスマスを家族で過ごすのが一般的で。 大統領だって例外ではない。 本当はサイファーも食事へと誘われたのだが、どうしても外せない会議があり、こうして悪友と飲むことになった。 「でも誕生日は一緒だったんでしょ? 何もらったの?」 「うるさいな」 サイファーは左袖を少し持ち上げて、腕にまだ馴染んでいない時計をちらりと見せた。 先日スコールからもらったばかりのそれは以前のものより少しだけ重くて、裏に刻印があったが、それをアーヴァインに見せる気はない。 「へぇ」 口笛を吹く真似をして、アーヴァインは頬杖をついた。 「貴方と時を刻みたい、とか」 「なんだそれ、何の映画ネタだ」 肩をすくめて、アーヴァインはグラスを干すとバーテンダに手を上げて合図をした。 「同じワインと、こっちの色男さんに一番高いウイスキィ、ダブルで」 「キニアス」 「僕からの誕生日プレゼント、ってことで」 わざとらしくウインクして見せて、アーヴァインはアーモンドを手にとった。 酒を飲みながら仕事のことを話すことはあまりない。 プライベートな近況や、ガーデンでのことなどテーマのない世間話が一段落すると、自然と会話はスコールとのことになる。 どんな話術なのか、アルコールのせいではなく自然と話してしまっていることに後から気づく。 聞かれたところで何がある訳でもない。 お互いいい歳で、大人なのだからそれ相当の関係なことは当然で。 表立って公表はしていないが、恋人、と呼ばれる関係になってから随分経つ。 「相変わらずデスクではストイックな顔してるからさ」 その表情を思い出したのか、クスクス笑いながらアーヴァインはグラスを口元に運ぶ。 「生徒には聖人か何かだと思われてそう」 「黙ってればな」 「そうだよね〜僕らは性格知ってるから、ありえないけど」 「酒が入ったらなおさらたちが悪い」 サイファーは煙草に火をつけて、苦笑した。 「仕事のパーティなんかじゃしっかりしてるのにね。プライベートだと」 「ベッドまであのままだから、なおさら始末が悪い」 にやりと笑って、煙をアーヴァインの方に吹きかけると、彼も同じように笑って、サイファー の言った意味を理解した。 「なになに、そんな大胆な感じ?」 「赤い顔して迫ってくるくせに、途中で力尽きて、次の日、自分の言ったことを覚えてない」 「それってサイファーの方に問題があるんじゃないの〜」 「さぁな」 灰皿に煙草を押し付けて、サイファーは首を傾げた。 「とゆーより、その言い方ってつい最近の話って気がするんだけど」 「どうだろうな」 「いいなぁ〜、ねぇ、クリスマスだし、サンタの格好とか、そーゆーのはしないの?」 「はぁ?」 そんなに飲んだ風ではないのに、話の内容は確実に酔っぱらいのそれで。 サイファーは何でこんな話になったのか、と思い返したが、話を振ったのは自分だったと諦めた。 「赤いケープにさ、何も着てないとか」 それはサンタか、という疑問の前に、具体的に頭の中で想像してしまい、サイファーは視線を左上に向けた。 「あ、もしかして具体的に想像したでしょ」 「お前の趣味だろ。何だ、どんなDVD見たんだ」 にやりと指摘されて、サイファーは焦りをごまかすようにグラスを掴んだ。 飲み干した液体が、先程より熱く感じる。 「まぁでもスコールだしね〜」 「いつも隙はありませんって服装だからな」 「あれ、そういうのがキミの趣味じゃないの、脱がせる楽しみがある」 眉を上げて断定するように言ってから、アーヴァインは肩を竦めた。 「否定はしない」 「だろうね〜」 サイファーはチェイサーを口に含んで何杯飲んだか思い出そうとした。 酔った、というほどではないが、いつもよりペースが早いのは事実。 腕時計に視線を落とすと日付が変わろうという時間で。 「キミの好きな服装を当てようか。黒の細身のタートルに、薄い色のジーンズ、アクセサリィはなしで一目で高級と分かるコート」 「何だその具体的な」 「サイファー」 名前を呼ばれてサイファーは驚いて振り返った。 先程から話題の中心になっているスコールがそこに居て、曖昧に口角を上げた。 目元がうっすらと赤くなっていて、飲んでいることが分かる。 「メリークリスマス、スコール」 アーヴァインはスツールをひとつずれて、ここに座れと二人の間を空けた。 fin. |